大判例

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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)1730号 判決

(争いのない事実)

一 控訴人が本件登録実用新案の実用新案権者であること、並びに被控訴人岡本理研ゴム株式会社及び同株式会社大平工業所が、原判決添付の別紙目録記載の構造のオール(以下「(イ)号オール」という。)を製造し、販売し、同日プラ株式会社が、(イ)号オールを販売していること、並びに(イ)号オールが控訴人主張のとおりA´からE´の構成からなることは、本件当事者間に争いがない。

((イ)号オールが本件登録実用新案の技術的範囲に属するかどうかについて)

二 成立に争いのない甲第一号証(本件実用新案の公報)によれば、本件登録実用新案の技術的範囲は、控訴人主張のAからEの構成からなるオールにあるものと認めるを相当とし、他にこれを左右するに足る証拠はない。

しかして、(イ)号オールの構造中前示Aに対応するものは、控訴人主張のA´の部分、すなわち、「気密中空部4を有する合成樹脂製水かき部1の水かき用板状部分1´の上方に雄螺旋部5を設けた」点にあることは、当事者間に争いのない両者の構成に徴し明らかなところ、これらの相対応する部分を比較すると、(イ)号オールの合成樹脂製水かきには、本件登録実用新案の構成要件中前示Aの「空室1」に相当する構成を欠くこと明らかである。以下に、その理由を詳説する。

前掲甲第一号証の「考案の詳細な説明」の項の記載によれば、本件登録実用新案における「空室1」は、これに水又は砂を入れることにより、オール、特にその水かき部の重量を調節し、更に、あるいはその中に着色した物質を入れることにより、水かき部を透明な樹脂をもつて構成した場合に、その部分を美しい色とすることができる機能を営むほか、柄と水かきとを螺合し、外部と遮断することによりこれを気密的にし、必要に応じて、オールの浮力を高めるなどの機能を営むものであることを肯認しうるところ、(イ)号オールにおける気密中空部4は、少なくとも、水又は砂、あるいは、着色物質を入れる目的のために設けられたものとは認めえないこと、当事者間に争いのない(イ)号オールの構造に徴し明らかというべく、これを左右するに足る証拠は全く存しない。したがつて、両者は、本件において明らかにされた事実関係の下においては、それぞれがオールの構造についてもつ技術的意義を異にするものといわざるをえない。控訴人は、この点につき、「この空室は、開放的であると、気密的であるとを問わない」旨主張し、この主張は、本件登録実用新案の登録請求の範囲にその点について何ら限定がされていないことを根拠にするもののようであるが、このような議論は、字句の表面にのみ拘泥し、考案の実質に思いを致さないものであり、当裁判所の左袒し難いところである。本件「空室1」は、常に、水かき上端部に設けた透孔その他の透孔により、水又は砂、あるいは、着色物質を入れうるものでなければならないものである意味において、開放的なものでなければならないが、ただ、重量の調節を必要としない場合及びブイ代用として使用する場合は前記のように柄と水かきとを螺合する結果、外部と遮断されるという意味において前記透孔が存在するにかかわらず気密的ということができ(その限りにおいて、(イ)号オールの気密中空部4と機能的に相類似することは、見易いところである。)、「空室1」には透孔が全く存在しなくてもよいとの意味において気密的であつて差支えないというものでないことは、前掲甲第一号証から窺いうべき本件登録実用新案の全趣意に徴し明らかというべきである。

以上説示のとおりであるから、(イ)号オールは、他の点について対比判断するまでもなく、本件登録実用新案の技術的範囲に属するものということはできない。

(むすび)

三 叙上のとおり、控訴人の本訴各請求は、進んでその余の点について判断を用いるまでもなく、理由がないものというほかはないから、控訴人の本件控訴は棄却する。

〔編註〕本件における当事者の主張は左のとおりである。

(当事者の求めた裁判)

控訴代理人は、当審において、本訴請求中、損害金請求額を限縮し、「原判決は、取り消す。(一)被控訴人岡本理研ゴム株式会社及び同株式会社大平工業所は、業として原判決別紙目録記載のオールを製造し、販売し、被控訴人日プラ株式会社は、業として同目録記載のオールを販売してはならない。(二)被控訴人岡本理研ゴム株式会社は、控訴人に対し、金百五万三千円及びこれに対する昭和四十六年七月二十四日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。(三)訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人ら代理人は、主文第一項同旨の判決を求めた。

(当事者の主張・証拠関係)

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり附加するほか、原判決の事実摘示と同一(ただし、原審原告内田樹脂工業株式会社に関する部分を除き、原判決十六枚目表八行目から九行目の「第二六条第一項」を「第二十六条」に改める。)であるから、これを引用する。

一 控訴人の主張

1 本件考案は、空室と外部とを連絡する透孔の存在を構成要件とするものでない。この点に関する原審の解釈認定は、甚だしく不当である。すなわち、本件実用新案の明細書は、「考案の詳細な説明」の欄の冒頭において、「本案は空室1を有する合成樹脂製水かき2の上部に……水かき2と柄6とを一体化してなるオールの構造に係り、」と記載して、本件考案の構成要件を明示し、これに引き続いて、「図中10は水かきの上端部に設けた透孔を示したものである。」と記載しており、本件考案の要旨とする構造と要旨外の説明とを区別しているし、更に、本件考案の構造に由来する作用効果として、「遭難した際は、ブイの代りとすることも可能である。」と記載しており、本件オールをブイの代りとするためには空室の存在は要件となるが、透孔は反目的々存在となること等からすれば、前示透孔の存在は本件考案の要件ではないこと明らかである。本件オールの重さの調節ということも、本件考案においては、空室のみをそのための要件としているのである。すなわち、本件考案の水かきは合成樹脂製であるから、取扱者や使用者において極めて簡単に連通孔を穿つことができ、水や砂を空室に入れてオールの重さを調節する場合でも適度の重さとしたのちは透孔を閉鎖しなければオールの性質上その重さを維持することはできないので、本件オールの実際の使用状態に則して考えれば、オールの重さを調節するという本件考案の目的を達する手段としても、透孔は必須要件ではない。

2 被控訴人岡本理研ゴム株式会社が昭和四十三年七月一日から同年十二月三十一日までの間に製造した被控訴人ら製品の数量は、被控訴人ら主張のように、二万一千六十本であることは争わない。よつて、控訴人は、そのこうむつた損害として、金百五万三千円及びこれに対する不法行為の後である昭和四十六年七月二十四日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

3 被控訴人株式会社大平工業所及び同日プラ株式会社が、被控訴人岡本理研ゴム株式会社から被控訴人ら主張のような通常実施権の許諾を受けていることは認める。

二 被控訴人らの主張

1 本件考案においては、結合環について取付け構造をとる結果、取付け部分を肉厚にすることが不可欠であるが、被控訴人ら製品においては、嵌挿構造を採用する結果、一部肉厚にする必要はなく、均一にすることができるという作用効果上の顕著な差異もある。

2 被控訴人株式会社大平工業所及び同日プラ株式会社は、昭和四十八年五月一日、被控訴人岡本理研ゴム株式会社から、同被控訴人が有する実用新案権(原判決十四枚目裏第一行目から第四行目に記載のもの)につき通常実施権を許諾され、これに基づき被控訴人ら製品を製造し、販売しているものであるから、被控訴人ら製品の製造、販売につき控訴人からその差止を求められるいわれはない。

3 控訴人は、本件考案におけるオールは、ブイの代りとするためには透孔は反目的々存在となるから、透孔の存在は本件考案の構成要件としているものではない旨主張する。しかし、空室に水が侵入すれば、ブイの代りとするという効果を期待することができなくなるから、空室に水が侵入しないことが本件考案における不可欠の要件とならざるをえないのであるが、本件実用新案の明細書の「考案の詳細な説明」の欄には、本件考案の作用効果として、「水かき2の上部にある透孔10より水や砂を空室1内に容れることにより、使用者に適した重さとすることができ、」との記載があり、この記載からすれば、控訴人の右主張はそれ自体理由がないものというべきである。

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